「ドーモ、ウルチ=サン。トビズムカデ デス」
「アイエエエ!ムカデ、ナンデ!?」
休日の午後、もはや私物化した図書館から届けられた『刑事メンタル』の要点をWordにまとめているとヤツは突然やってきた。完全なるアンブッシュ。野生を勝ち抜いてきた者だけが持つスキル。その毒牙に硬い装甲、共にヒトたるウルチにはないものだ。
しかし、挨拶はされたら返さなければならない。古事記にもそう記されている。
「ド、ドーモ。トビズムカデ=サン。ウルチ デス」
時すでに遅し。ムカデの姿はない。
しかし、座布団とカーペットの隙間に張り込んだのをニンジャ動体視力を持つウルチが見逃すはずがない。
休日のリビングは壮絶な戦(イクサ)の開始点となる。
「何があった!」
増援(弟)である。これで頭数は倍。足数は依然10倍以上の差を付けられているが、問題ない。弟の手に祖父から伝えられし殺虫剤『キンチョール』が握られているからだ。
祖父は現役時代、蚊・蠅・虻・蜂と言った害虫をキンチョールで、ことごとく葬り去ってきた。時代は移り、使い手を変えた今でも変わらぬ、赤い頭にだんだら模様は信頼の証だ。
「イヤーーッ!!」
カラテだ。いつの時代もカラテを極めた忍者が上に行く。増援を得て気を大きくしたのウルチの一撃だ。しかし、敵を捕捉していない、ヤバレカバレだ。
カーペットとクッションにより威力は減退。装甲に覆われたムカデボディは無傷。
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
下手な鉄砲も数撃ちゃジッサイ当たる。ウルチの狙いはムカデを殺すことではない。弱らせることだ。
動きを鈍らせキンチョールを打ち込む。ウルチブラザーズの作戦。
慎重に座布団を捲る。
「アイエ?」
「イヤーッ!」キンチョール発射
「イヤーッ!!!」弟の攻撃は隙を生じぬ2段構え、ハエたたきだ。下がカーペットなので、威力は出ないが動きは完全に封じた。
「トビズムカデ=サン、ハイクを詠め」ウルチの手には小学校の時代に購入した裁縫道具がある。
「イヤーッ!」先ずは毒牙のある頭部。「イヤーッ!!」次は尾部。買ったのはいいが、全く使わなかったミシン針による貫き。これで動けまい。
高校時代、現代文の先生に習った一節を紹介しよう。
「人間が最も快感を感じるのはどんな時か。誰かに褒められた時?違う。恋人との情事?違う。拷問されていた側が立場逆転し、拷問する側になる時だ」
待ち針による拷問のような連撃。体節を1つ1つ確実に複数回串刺しにしていく。
ピクリとも動かなくなったところでラジオペンチで頭部を粉砕。実に気持ちいい瞬間であった。そしてGo to HellではなくGo to Toilet。我が家では害虫はトイレに流すという掟がある。
遺骸が流れていく。ウルチの勝利だ。