遂にこいつと相対する時がやってきた。
ペヤング アップルパイ味
馴れ初めはドン・キホーテ。一目見た瞬間、『こいつはヤバい』と感じる一目惚れならぬ一目避けであった。僕とて人間、命が惜しいのだ。
飲料コーナーでMAXコーヒーを発見しテンションが上がる中、脳裏に過るあいつの姿。
見るだけなら問題ない。胃にさえ入れなければ。
好奇心に負け、特売コーナーに舞い戻る。
明らかに山積みの棚。隣の缶コーヒーは売れているため、商品の一角にそびえる黒鉄の城。マジンガーZではない。ペヤング アップルパイ味だ。
店頭POPには『企画物在庫...』の文字。三点リーダーがなんとも哀愁を誘うではないか。
価格は50円。全く売れていないことから、この価格でも需要と供給のバランスが成り立っていないことが分かる。至極当然な結果である。
拒否する体、挑戦を望む心。相反する2つが体内でぶつかり合い1つの結論が産まれる。
男は度胸。
無傷の黒鉄の城に一矢報いるためレジに向かう。レジ係の驚いた顔など久しぶりに見たわ。覚えておくがいい店員よ。これが【剛】の者だ。
購入した当日は体調不良のため実食は見送った。戦いは勢いだけで勝てるものではない。万全を期す必要がある。
そして今日、成人の日。新たなる門出を迎えた新成人を尻目に僕は戦場(キッチン)へ向かう。相対するは当然ペヤング アップルパイ味。
いざ、尋常に勝負。
パッケージを開ける。いつもの麺にかやくとは名ばかりのリンゴ、怪しげなソース。なかなか強力な面構えをしているじゃないか。しかし、こちらとて負けてはいない。この日のために8時間睡眠に体力の消耗を防ぐため日課の筋トレも控えたので体力気力十分だ。
湯を入れ3分後、湯切り。思っていたよりリンゴ臭はしない。これはイケる、そう思った僕の心をへし折ったのはソースであった。
数か月前、母が買ってきた『リンゴバター』に酷似した匂いがするのだ。アレはトーストに付けるもので決して麺に絡めるものでない。想像しただけで吐き気がするのに、これを実際に食わねばならぬとは。人生とは実に難儀なものである。
実食
1口目、意外と食べられることに驚く。
2口目、リンゴ単体は普通に美味しい。
3口目、味に新鮮さがなくなり普通に不味い。
4口目、心を無にすることを決意する。
箸を進めるにつれ心を無にしても体が拒絶を始める。特にインスタント麺特有の食感にシナモン香るリンゴバター味が脳を混乱させ、嘔吐中枢が反応する。
爽やかな景色を想像し耐える。箸が進まない。徐々に強くなる胃からの抗議の声。
「もう、止めたら?」馬鹿息子の苦悶の表情に母から降伏勧告が届く。
断る。
僕とて男である。食べ物を粗末にする無条件降伏など吞むわけにはいかない。
精神が肉体を凌駕する。気迫で完食した僕に父から掛けられたのは称賛や労いではなく質問の声。
「どうだった?」
不味いに決まっているじゃないか。
もしも、この商品を不幸にも食べることなってしまったのなら1つアドバイスがある。
麺は通常のものと同一なので湯切り後、フライパンで焼きそばソースとともに炒めて食べる。そして残ったソースとリンゴは食後のデザートとして食べるのだ。そうすれば吐き気を感じない食事を楽しめると思う。