コロナウイルス対策として僕の職場にもZOOMが導入された。本部と各部署をZOOMで繋ぎ3密を確保しつつ、業務の連携を図る上層部肝いりの企画である。
規定の時刻となりPC前にスタンバイする僕ら職員。皆、やや緊張しているようだ。
ボス「規定のじ...........に...................まず」
接続不良だろうか、ボスの話が全く聞き取れない。他の参加者は頷いたりしているので、ZOOM全体の問題ではなく僕らのPCの回線の問題のようだ。
回線の問題は僕らでは対処しようがない。途方に暮れる僕らにZOOMから『回線が不安定です』のお知らせが表示される。そんなことは言われなくても分かっている。
ボスの話は依然として続いているが、回線の状況は悪化の一途を辿る。聞こえてくるのは輪ゴムを伸ばして指で弾いたような音やTV番組で見たUFOから発生する音、もはやヒトの言葉を話さなくなったボス。絶望する僕ら。まさか職場で未知との遭遇を体験するとは。画面の無効の宇宙人(ボス)はコミュニケーションを取ろうしてくるが、我々は地球人だ。宇宙語は分からない。
そんな中、画面に動きがあった。参加者の一部が画面の前で手を挙げているのだ。ZOOMには発言のための挙手機能があるが、それを知らないのだろうか?
この新たな動きに戸惑う僕らスタッフ。どうする、どうする?と小声で話し合っているうちにこの挙手タイムは終わってしまった。画面の向こうでは別の宇宙人が話を始め、そして会議は終わってしまった。
「無駄な22分だった」ベテランスタッフ①の呟き。
「まあ、本部に上司が詰めてるし、戻ってきたら話を聞こう」ベテランスタッフ②は皆を宥める。
上司が本部にいるなら、僕らがZOOMで参加する意義は何なのか。
上司帰還。すぐさま質問責め。
Q:全く聞こえませんでした。会議の内容を教えてください。
A:ああ、あの会議は後で職場内サーバにUPされるから各自で見て。
Q:あの挙手は何の意味があったのですか?
A:あれは回線が重くなることが分かっていたから〈聞こえない人は手を挙げて〉知らせる仕組みだった。
......ダメだこれは。一応、部下として意見する。
僕:僕らはそれすら聞こえませんでした。そもそも、聞こえない人はその発言すら聞こえないので手を挙げることができないのでは?
A:いや、でも手を挙げている連中もいたぞ。
何故、回線が重くなることを予期しながら質問の仕方に問題があることに気付けないのか。〈聞こえない人が手を挙げる〉のではなく〈聞こえている人が手を挙げる〉ように言うだけで問題は解決する。
それでも会議の内容自体は職場内サーバにUPされるから情報伝達に問題はないと思う人もいるだろう。
それは間違いだ。
ZOOMに使用するインターネット回線用端末はスピーカーが内蔵されているが、職場内サーバにアクセスする業務用PCにはスピーカーは内蔵されていない。無論、セキュリティ対策としてインターネット回線PCと業務用PCは接続されていない。
つまり、また音声なし動画を見ることになるのだ.......
もう、無駄な時間は御免だ。事務所に向かう。外付けスピーカーを借りるためだ。
事務員に今回の動画配信に問題があることを伝えるとスピーカーは動画を閲覧終了次第、直ぐに返却するように頼まれた。
部署に戻りPCと外部スピーカーを接続する。
......
事務員「ウルチ君、早いね。もう(スピーカーを返却して)いいの?」
僕「はい。結論から言うとこのスピーカーは故障しています」
もう嫌だ。この職場。